それぞれのStory

吉田雅彦さん(56、東京、RCOJ9605054)

北海道釧路と東京を結ぶ大型クルーズフェリー「サブリナ/ブルーゼファー」は日本のクルーズ船ブームの嚆矢だった。いつかコンパクトなオープンカーを手に入れてこのフェリーで北海道ドライブに行けたら…そんな妄想が1990年初秋に実現することになりました。
駒沢公園脇のユーノス店を覗いて「オートマティック車が出たら買ってもいいんですけどねえ」と言い残した数週間後「オートマ車。出ますよ!来年春ですけど…」と電話が!こうして、6ヶ月以上にも及ぶ納車までのもどかしい日々が始まった…。
1989年、バブル景気真っ盛りのこの年、消費税が導入されたものの乗用車に課せられていた物品税は廃止され空前の新車ラッシュ。400万以上もするスーパースポーツが何千台も売れ、ユーノス新車には何万件ものバックオーダーが入った…(販売店に依っては2年ものバックオーダーを抱える地区もあり、わざわざ地方都市から越境して都内にまで買いに走る顧客もいたそうな…)…試乗車に乗れるのも手付け金を払った購入予定者のみ。初試乗でソフトトップを開けた直後、ニヤニヤしながら運転している自分に気がつき、思わず苦笑してしまった。今まであんなに楽しい試乗体験はほかにない。
ロードスターを手に入れてからの7年間、釧路の交差点で、麻布のコインランドリー店で、…何十回クルマの名前を尋ねられたことだろう。その度に世界の有名ブランドを挙げて「…の新型車で、コレから日本でも売られるんですよ!」と応えるとみんな納得していたのも懐かしい昔話。
鹿児島/志布志から網走・能取岬まで日本中に足跡を残し、97,000kmあまりで下取り車として引き取られたNA6Cオートマティック標準車での最後のドライブ先は軽井沢。全国から仲間が集まるミーティングの会場だった。ユーノスを手放したあとも、年に一度だけここでまた逢瀬を楽しめる、運が良ければ元愛車との再会だって…と、足を運び始めた軽井沢詣でも10年を遥かに超えた。
クルマを取り巻く世の中も、消費税の税率も大きく変わって来たけれど、あの日トップを空けた瞬間の「ニヤニヤ」を、きっと今年も誰かがどこかで体験しているに違いありません。そしてもうすぐ逢える新型のロードスターを見たら、またニヤニヤしている自分に気づくのかも。
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    (RCOJ会報vol.70巻頭 from officeから)